いつもお世話になっております!
メドレックスのマイクロニードル工場建設発表の記事を書いたら、それに伴う減損リスクについてお問い合わせを頂いたので整理してみました。
分かりやすく書こうと思ったけど……難しいな。
メドレックスさんを使って「減損」について説明。
まずは貸借対照表の説明から。
下記の左側はメドレックスさんの2017年12月期の貸借対照表です。
出典:平成29年度12月期メドレックス決算から僕作成
貸借対照表の右側(負債と純資産)は、どうやって「お金」をどうやって調達してきたか、を示しています。
一方、左側(資産)は集めた「お金」をどういう形で持っているか、を示しています。
「右側」について大きく分けると、銀行さんから借金をした場合などは「負債」に入り、株券を発行して市場から集めてきた場合などは純資産に入ります。
事業による過去からの利益の蓄積である利益剰余金(いわゆる内部留保)も純資産に入ります。
ちなみにメドレックスの場合は創業時から基本はずっと赤字なので、利益剰余金はマイナス(累損って言います)です。
2017年を12月期時点の累損は82億。
……にも関わらず、現状、純資産がプラス20億ってことは、これまで100億以上を株式市場などから集めてきたということですね。
では、今回の増資で貸借対照表がどう変化するかを見てみます。
もう一回さっきの図。
出典:平成29年度12月期メドレックス決算から僕作成
ザックリ増資額を40億とすると、純資産が40億増えて、流動資産(現預金)が40億増加。
表にすると右の貸借対照表みたいな形になります(あくまでも2017年期末の数字を基準にした例)。
そして工場を建設するとどうなるか。
貸借対照表は以下のように変化します。
工場を建設しても、瞬間的には流動資産(お金)が固定資産(工場)に移るだけです。
出典:平成29年度12月期メドレックス決算から僕作成
ただし、いざ工場を建てちゃうと、今度は損益計算書に影響してきます。
まずは当たり前ですが工場の維持費が掛かりますよね。
だけどそれだけじゃないです。
減価償却費が掛かってきます。
減価償却というのはザックリ言うと、工場を建てたり、機械を買ったりしたときに「買った年に一括ドカーンと経費にするんじゃなくて、一定の年数で分割して経費に入れてね」っていうもの。
「一定の年数」というのはモノによって変わってきますが、ここでは30年とします。
すると、1年あたり1億3000万円ほど販管費が増えることになります。
下記はメドレックスの損益計算書です。
販管費のところに工場の維持費と減価償却費が乗っかってくることになるんです(あ、量産工場なら売上原価に入ってくるのかも。まぁ経費になるのは同じことです)。
出典:平成29年度12月期メドレックス決算から僕作成
合わせて、減価償却費と同額分だけ、固定資産(建物)の価値が減っていきます。
出典:平成29年度12月期メドレックス決算から僕作成
30年後、最終的に建物の金額はゼロになるわけですね。
……ただ、うまくいかないこともあるわけで。
それが、減損リスク。
工場を作ったはいいけど、全然マイクロニードルの受注が入らなくて、「この工場って無用の長物だよね……」って監査法人に判断された場合、「減損」処理が必要になります。
簡単に言うと、工場の残りの価値分を一撃で経費化するもの。
例えば、工場を5年くらい減価償却していって、帳簿上の建物の価値が30億になったときに一気に経費化されるとどうなるか。
その年の赤字額がトンデモナイことになります。
ただし、ポイントはこれって「現金」が実際に出ていく訳じゃありません。
現金は工場を建てるときに出ていってしまってますので、「減価償却」と「減損」についてはあくまでも「会計」上の処理の話にしかすぎないのです。
単に数字を動かしてるだけ。
んじゃあ何が問題かというと、色々あります。
工場建設による収益化が「無理」と判断された訳なので、投資家が考える企業価値は下がりますし、「巨額赤字」って発表されると会社のイメージも最悪になります。
あとは、損益計算書と貸借対照表は繋がっていて、損益が黒字なら貸借対照表の純資産は積み上がっていきますし、赤字なら純資産は毀損されます。
30億分の赤字になるってことは、30億分純資産が減るってこと(繰り返しになりますが、これもあくまでも実際にお金が出ていくわけじゃなくて、会計上です)。
場合によっては、UMNファーマさんが一時陥った、資産よりも債務が多い「債務超過」という状態になります。
1年以上、債務超過の状態が続くと「上場廃止」にされちゃうので、株価はドカーンと下落するのは必然。
なんせ上場廃止になれば、株券ほぼ紙屑化ですから。
というわけで、工場建設には、実際にお金が出ていく工場維持費と、お金は出て行かないけど会計上の赤字の拡大要因になる減価償却費の負担、さらに工場がアカン代物と判断された場合の減損処理のリスク、などなどが付いてきます。
なんか説明下手でしたが、だいたいこんなイメージです。
なお、これは会計基準が日本基準の場合。
国際会計基準のIFRSを採用している会社はまた変わってきます。
これについてはまた機会があれば。
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それでは今日はこの辺で失礼いたしますぅ。頑張れメドレックス!
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