いつもお世話になっております!
先日、MSワラントを発表した3Dマトリックスさん。
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「引受先がSMBC日興証券ってグッド材料じゃないですか?」的な問い合わせをいただいたので、改めてMSワラントという増資のスキームについて整理しておきます。
*あくまでもザックリとした説明用です。
MSワラントとは?
お金がなくなっちゃった会社はどっかから調達してこないといけません。
調達手段は大きく分けて2つ。
銀行から借りてくるか、株を発行して買ってもらうか。
もう目いっぱい銀行から借りていて、「これ以上貸せないよー」と言われたら、基本的には新株を発行して誰かに勝ってもらうしか方法はない!
ガンガン成長してる会社なら簡単ですよね。
「ちょっとだけ割安にするから買いたい人は手を上げてー!」ってやれば、「くれくれくれ!」って一般投資家がわんさか集まって買ってくれます。
いわゆる公募増資ってやつ。
一方、不特定多数に公募してもらうやり方の他には、特定の大金持ちヤローに買ってもらう方法もあります。
第三社割当増資ってやつですね。
そして第三者割当に色々条件を付けたのが今回のMSワラント。
「第三者割当による新株予約権(行使価額修正条項付)の発行」です
新株予約権というのはイメージが付きやすいでしょう。
今回の3DマトリックスのMSワラントを例にすると、マトちゃんがSMBC日興証券に「うちが新しく発行する株券(450万株)を1株○○円で買える権利を、アンタに付与するよ」ってな感じ。
SMBCが実際に新株予約権を行使して株を買ってくれれば、そのお金は会社に入ってきます。
逆に言えば、SMBCが予約権を行使して株を買ってくれない限りは、いつになっても会社にはお金が入ってこない!
買ってくれない場合とはどういうケースでしょう。
一番簡単なのが、1株1000円で買える権利をもらったとしても、株価が900円になっちゃうようなケース。
これなら新株予約権の引受先はわざわざ予約権を行使して1000円で株を買わなくても、株式市場に行けば900円で買えるので権利行使しませんよね。
こうなると会社にとってはいつになってもお金が入ってこないのでマズい!
そこで「行使価額修正条項」というのが出てきます。
例えば「1株の値段を1000円って固定するんじゃなくて、株式市場の前日終値の10%引きの値段で買えるように毎日修正してあげるよ」っていうもの。
これがMSワラントです。
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MSワラントは引受先が一番の勝者
冷静に考えれば、っていうか冷静に考えなくても、新株予約権の引受先にとっては「スーパーおいしい」条件ですよね。
予約権を行使して株を買って、すぐに市場で売っちゃえば、ほぼノーリスクで儲かっちゃいます。
ぼくのようなアホでも利益が出せます。
実際、割当先は基本的にはすぐ売ります。
長期保有なんてしません。
差額分を儲けて、「ごっつぉーさん!! また機会がありゃ頼むわ!」って颯爽と去っていきます。
前日終値の10%安く買えるなら、5年後につぶれそうな会社の新株予約権だってほしくないですか?
ぼくはほしいです。
買ってすぐ売れば良いだけだもん。
なので、今回のケースでいうと、MSワラントの引受先であるSMBCが3Dマトリックスの企業価値を評価して出資したとか、ましてや中期経営計画について評価しているなんてことはない訳です。
(*そもそも評価してるとか評価してないとかいう問題じゃない)
バイオベンチャーへのMSワラントの営業ってすごくあるらしいね。
そりゃそうだよね。儲かるもんね。
空売りで2度儲ける?
MSワラントの恐ろしいところが、引受先は新株予約権を行使する前に「空売り」をすればもっと儲かるってこと。
つまりは下記な感じ。
まずは「空売り」せずに、普通に新株予約権だけ行使したときの引受先の利益は↓のイメージです。
[aside]*新株予約権の手数料だとか、売買手数料、翌日の値上がり・値下がりリスクなんかは全部無視します。 [/aside]
株価が1000円で、10%引きで株が買えるときの利益
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・空売りしないとき
①引受先は1000円で買えるカブを、10%引きの特別クーポン(新株予約権)を使って農家さん(会社)から、直接900円で買う。
②すぐに市場に行ってカブを1000円で売る。
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⇒1カブ当たり100円儲かります。
これは簡単。
だけどもっとおいしい方法があります。
大株主から株を借りて空売りを行い、株価を下げた後に新株予約権を使って株を買い、その株で借りた株を返すときの利益
早口言葉かよ。
ちょっと分かりにくいけど、ザックリいうとこんなイメージ。
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・空売りをするとき
①引受先は、「カブはおいしいから、いつか1000円より高く売れるようになるやろ!」と誰かの冷蔵庫に放置されていたカブを借りてくる。
②借りてきたカブを市場で1000円で売る。
③市場では「おや、なんか最近カブの量が増えてきたな……」ってなり、カブの値段が下がる(例えば500円になったとします)。
④引受先は500円に値段が下がったカブを、さらに10%引きの特別クーポン(新株予約権)を使って農家さん(会社)から450円で買う。
⑤引受先は450円で買ったカブを、借りてきた人に返す。
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この方法を使うと、順番は逆になりますが、450円で買ったカブが1000円で売れたことになるので、1カブ当たり550円儲かりますよね。
実際にMSワラントはこういう恐ろしい側面があるので、「悪魔の錬金術」なんて呼ばれたりしているわけ。
ただたまったもんじゃないのは、カブは超おいしいからもっと値上がりするだろうと思って冷蔵庫に入れていたヤローども。
つまりは既存カブ主だ。
1000円のカブが450円になったから値上がりどころの騒ぎじゃない。
大損だ!
[aside]補足
上記は極端な例ですが、通常。引受先はリスクヘッジのために空売りが使用するケースが多いです。
いくら新株をすぐに売るとはいっても、新株予約権を行使してから現物株が手に入るのは翌々営業日。
タイムラグがあるので、その間に株価が暴落するリスクも無きにしも非ず。
そこで新株予約権を行使すると同時に、同数の株式を空売りをすれば、リスクを回避できますね。
こんな感じで、空売りを駆使しながら新株予約権を捌いていくのが一般的です。
いずれにしても引受先はほぼノーリスクで儲けられます。
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株券貸借に関する契約
こんな事態になっちゃったら会社は既存株主から怒られちゃうんで、最近はどこの会社でもMSワラントの発表文に「株券貸借に関する契約」っていう一文を載せていますね。
例えば3年前のDWTIさんがMSワラントをしたときはこんな感じ。
当社及び当社の役員・大株主と割当予定先の間において、本新株予約権の行使により取得する当社株式に関連して株券貸借に関する契約を締結しておらず、またその予定もございません。
出典:デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 第三者割当による行使価額修正条項付第9回新株予約権の発行に関するお知らせ
「役員とか大株主は引受先にカブを貸しませんよ」、と言ってるわけですね。
カブ持ってる人はたくさんいるから、引受先が個別に借りてくる分には知らないけど、少なくとも会社や会社の役員や大株主が持っているカブは貸さないと。
会社もカブ価が下がっちゃうと、調達できるお金が少なくなって困るからね。
MSワラントによって、空売りによるカブ価下落を懸念したパニック売りが出ないよう、「とにかく落ち着けや!」という既存カブ主へのメッセージ。
ちなみに今回の3DマトリックスさんのMSワラント。
ぼくは既に諦念の気持ちでいるので詳しく見ていませんでしたが、この「株券貸借に関する契約」の表現がちょっと気になるものでした……。
下記に追記をしたので気になる人はどうぞ。
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まとめ
・MSワラントの引受先は長期保有する気なんてサラサラないぞ!
・なんなら空売りを仕掛けてくることもフツーにあるぞ!
引受先の長期保有を前提とした第三者割当と、今回の3DマトリックスのようなMSワラントを一緒にしている方が意外と多い印象でした。
バイオベンチャーに投資する際は、現預金の残高と年間のキャッシュフローは常に注視しておくべきですね!
株価に絶対がないところが投資の怖いところでもあり、おもしろいところ。
MSワラントをした会社の株価が100%に下がるとは言い切れませんが、大いに注意は必要かと思います。
「銘柄に惚れるな」って昔の人は良いこと言うよなあああああああああ!!!
それでは今日もありがとうございました。
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yukiyukiさん、わかりやすいご解説、有難うございます。
私も、YAHOO掲示板に「SMBC日興証券なら安心」とか「大手が3DMを評価した」といったトンデモナイ投稿が見られたので、あきれていました。
SMBC日興証券は、オンコリスも手掛けていますね。
追記いただいた3DMの発表内容(貸株の件)は、私には理解できませんでした。
そもそも3DMは自社株を保有しているんでしょうか?
永野氏については「貸株するで~」との意思表示と理解しました。(日興は2度美味しいMSSOを引受け条件にしているような気が…)
DWTIは良心的やなあ…